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第29回 研究業務推進部 研究支援グループ
触媒化学融合研究センター支援職員 横井由布子主査インタビュー

『多様な研究支援業務から、論文誌の表紙絵制作まで』

【文系出身で理系の研究機関へ就職し、事務部門から研究業務を支援】

今回は、産総研の研究を事務部門から支える横井由布子さんにお話を伺います。まず大学時代の専攻を教えてくだい。

京都大学文学部で東洋史を専攻しました。もともとロシア文学が好きだったことと、モンゴル史研究で有名な教授がいらっしゃったことから、東洋史のなかでも主にロシア史とモンゴル史を学びました。ロシアとモンゴルは歴史的な関わりが深く、東洋と西洋が若干融合したような地域です。

 

大学卒業後、産総研への就職を選んだ理由は?

公務員や公的機関を志望しており、就職活動を進める中で産総研の存在を知りました。

産総研への入所を希望したのは、私自身は文系ですが、もともとSF小説が好きで理系の世界や研究現場に憧れを抱いており、理系の研究所で働きたいという思いがあったからです。また実際に産総研を見学してみると、環境も職員の皆さんも大らかな雰囲気で、好印象を持ったことも決め手となりました。

 

産総研に入所後、どのような業務に就きましたか?

1年半から2年半間隔でローテーションをしながら、さまざまな業務を経験してきました。

最初に配属されたのは研究業務推進企画室(当時)です。ここは出勤簿システムの管理など、事務系のポジションの中で最も庶務的な業務を担う部署です。入所前に抱いていた「研究現場の近くで手伝いをする」というイメージとは異なっていましたが、与えられた仕事に取り組むうち、研究者は労働時間管理が二の次になりがちなので、そこを事務職員がきちんと管理する重要性を認識しました。

この研究業務推進企画室で1年半仕事をした後、産学官連携推進部プロジェクト支援室に異動しました。

 

産学官連携推進部では、研究成果を社会へ送り出すような、研究現場に近い仕事をしたのですか?

以前よりは研究現場に近くなりましたが、事務に特化した業務であることには変わりありません。具体的な仕事内容は、外部機関からの委託研究契約に関する事務で、契約書の締結、予算の配分、予算の確定検査への対応などです。

私が担当したのは、JSTやNEDOなど公的機関からの受託研究契約です。公的機関は資産の取扱いや予算の執行などについて厳しくルールが決められており、そのルールに則って研究者に予算の執行や資料の作成をお願いする立場でした。本来、研究を円滑に進めるための事務職員であるのに、逆に研究者に負担をかけているのではないかと思う場面もありましたが、守るべきルールの趣旨や必要性を理解してもらえるよう努めました。

ここで2年半仕事をした後、今度は経済産業省の繊維課へ2年間出向しました。

 

【経済産業省で、洗濯表示記号の法改正や規制緩和などの業務に携わる】

経済産業省の繊維課ではどのような仕事をしたのですか?

産総研と直接関係する業務ではありませんが、主に洗濯表示記号の法改正に携わりました。衣類等の洗濯表示記号は、『家庭用品品質表示法』でJISの記号にならって表示すると定められています。これまで日本独自の記号を使ってきましたが、国際規格に準拠した新JISを制定し、それに合わせて法律を改正することになりました。

平成28年12月1日から、衣類等の繊維製品の洗濯表示が新しいJIS L0001に規定する記号に変更された。(図は消費者庁ニュースリリース(平成28年11月4日)より転載)

 

法改正にあたっては、内容に齟齬が生じないよう、法律やJISの文言を徹底的に読み込み、用語の定義や条文の規定の及ぶ範囲について、詳細な議論を重ねました。

一番重要だったのは、業界団体との調整でした。洗濯表示記号の切り替えのタイミングや移行措置などについては、衣類の製造・輸入業者や小売業者だけでなく、洗濯機業界、洗剤業界、クリーニング業界、検査業界、さらにはタグ製造業者などさまざまな業界団体への影響が大きく、一般消費者にどのように周知するかも含めて、各方面と調整をする必要がありました。業界団体同士の立場の違いもあるため、誰にどのタイミングで話をするか、どこまでの負担をお願いできるか等、細かい調整に気を遣いました。

 

洗濯表示記号の法改正のほかには、どのような仕事をしたのですか?

規制緩和に関する相談を受けて、関連する法律の所管省庁へ確認や交渉を行うという業務もありました。例えば、近年、防虫効果や健康効果等を付加した機能性繊維が増えており、既存の薬品等と同じ基準で認可を行うのか等、厚生労働省の薬事法担当者と打ち合せをしながら調整を進めました。

その他、炭素繊維関係の研究開発プロジェクトの予算要求や新規テーマの提案、子ども服の安全性のJISに関する議論など、工業向け繊維から衣類まで、繊維業界の中でも様々な業種に関係する仕事に携わることができました。

 

経済産業省で携わった仕事で、苦労したことは?

専門知識をきちんと理解しておらず、間違った内容の文書を出して、業界団体を混乱させてしまったことがありました。クリーニング関係の規制緩和に関する相談を受けた際、「色抜き」と「染み抜き」という表現を混同してしまいました。前者はクリーニング業の認定が不要な作業、後者は認定が必要な作業であることから明確に使い分けなければならず、一度公開した文書の修正を求められました。

ほかにも、繊維業界は中小零細企業が多いためすべてを取りまとめる業界団体が存在せず、法改正等を周知するのが非常に困難でした。

 

苦労した一方で、法改正を通して国の動きを間近に見たり、他の省庁や業界団体と関わったりするなど、多様な経験を通して得たものは?

ニュースやインターネットの評判を見ると、「新しい洗濯表示記号は分かりにくい」という声もありましたが、そういう反応も含めて、自分の仕事がどれだけ世の中に直接影響したかを肌で感じることができました。

また、制度が少し変わるだけで業界団体にとって死活問題となることもあるため、誠実に仕事をしなければならないと痛感しました。

さらに、霞ヶ関では急な指示に瞬発的に対応しなければならない場面も多く、仕事をする上での基礎体力のようなものが培われたかもしれません。

 

【予算・人事・安全など、触媒化学融合研究センターの事務全般を担当】

出向から産総研へ戻った後は、どのような業務に就きましたか?

研究業務推進部の研究支援グループに配属され、去年5月から触媒化学融合研究センターのユニット支援担当として、予算、人事、安全関係などの業務を担っています。研究者と接する機会が一気に増え、仕事は非常に楽しく、また勉強になることもたくさんあります。

具体的な研究内容は難しく分からないことも多いのですが、できるだけ研究に専念してもらえるよう配慮しながら日々仕事をしています。また、最近は研究不正がニュースで大きく取り上げられることが多いため、事務手続きのルールに則って安心して研究を進めてもらうという側面から、間接的に研究を応援していけるのではないかと思っています。

 

触媒化学融合研究センターの雰囲気や職場環境をどのように感じていますか?

新しい研究に次々と挑戦し、企業との連携も活発に行われていて、非常に活気があり、柔軟な雰囲気の研究センターだと思います。また、佐藤一彦センター長が、異分野の多様な人材を結びつけているのを間近で見てきました。その一環で、論文誌の表紙に私の描いた絵を使っていただくという機会もありました。

 

論文誌の表紙絵(フロントカバーピクチャー)を横井さんが描くことになった経緯を教えてください。

もともと絵を描くのが趣味で、油絵から漫画的な絵まで幅広く描いてきました。写実的な絵柄が好きで、自然物のデッサンや、空想の世界や人物をリアルに表現した絵を描いています。

表紙絵を描くことになったきっかけは、サイエンスアゴラ(JSTが主催する日本最大級のサイエンスコミュニケーションイベント)のサイエンスアート講座を個人的に受講したのがそもそもの始まりです。サイエンスの分野では、写真では情報量が多すぎたり分かりにくくなったりするところを、敢えて絵で描くことで伝わりやすくするというニーズがあるようです。その講座の課題は、人間の頭骨(ドクロ)の模型をスケッチすることでした。

この絵を佐藤センター長に見ていただいたところ、関心を持ってくださり、センターの研究員の論文が論文誌の巻頭記事に選ばれた際、論文誌の表紙を描いてみないかと声をかけていただきました。ほかにも、佐藤センター長のお知り合いの方の絵画サークルを紹介してくださって、銀座の画廊の展覧会に一緒に出品させていただいたこともあります。自分の絵を発表する貴重な機会を得ることができ、とてもありがたく思っています。

 

【研究者と打ち合せを重ねながら、権威ある論文誌の表紙絵を作成】

論文誌にどのような作品が掲載されたのか教えてください。

掲載誌は『Angewandte Chemie International Edition』で、化学分野ではドイツで最も権威があり、世界的にも評価の高い論文誌です。ケイ素化学チームの松本和弘研究員が発表した「シロキサンのワンポット合成」に関する論文がVIP (Very Important Paper)に選ばれ、論文誌から表紙を飾ってほしいという話があり、佐藤センター長が私に声をかけてくださいました。

佐藤センター長や松本さんと打ち合せをしたところ、触媒=何かと何かをつなぐ、という連想から、世界的に大ヒットした「ピコ太郎」を描いてはどうかという案が出たのですが、そのまま描くのは何かと支障があると思ったので、大胆にアレンジして独自のキャラクターを創作することにしました。イラストでは、ピコ太郎のゼスチャーを意識して手に持った赤い玉と黄色い玉をつなげていますが、これは、3種類のケイ素化合物(赤、黄色、青で表現)を順番につなげることができる触媒を開発した研究成果を表現しています。

途中まで描いては、また打ち合せをし、何度も手直しを重ねて完成させました。

 

作品が採用された感想や、周囲の反応は?

研究現場が好きで産総研で働いていることと、趣味の絵が結びついたことがとてもうれしかったですね。私のように、研究者でもプロのイラストレーターでもない作者の絵が表紙に採用されるのは極めて稀だということで、触媒化学融合研究センターのホームページでも紹介していただいています(http://irc3.aist.go.jp/news/post-30511/

家族も喜んでくれて、研究者の夫から「もし自分の論文に表紙の話が来たらぜひ描いてほしい」と言ってもらいました。

 

表紙絵採用の実績ができ、横井さんのイラストが注目されると、また依頼がきそうですね。

実は既にオファーをいただき、計3誌に表紙絵を採用していただいています。

2誌目は、ケイ素化学チーム(中島裕美子研究チーム長)の論文が掲載された『Catalysis Science &Technology』(RSC /英国王立化学会)です。(http://irc3.aist.go.jp/news/post-35431/

1誌目と2誌目は触媒化学融合研究センターの論文のため、同じキャラクターを登場させました。今度は白い粉を撒いているシーンですが、それが触媒となって化学反応が起こることを表現しています。

 

 

 

 

 

表紙絵の作成にあたって研究者と打ち合せをする際は、文系の私にも研究内容が理解できるよう工夫して話をしてくださいます。研究者としてはなるべく正確に表現したいという要望がある一方、私としては要素を詰め込みすぎると却って分かりにくくなるという表現上の意向があり、そこを擦り合せる過程が非常に面白く感じられます。また、イラスト作成の新しいテクニックを開拓するのも楽しい点です。

 

 

 

最後に、産総研の事務職員として今後の抱負を聞かせてください。

産総研の事務職員は、研究者をサポートする立場にあります。現在は、研究者に所定のルールに則って手続きをしてもらうようお願いをすることが多いのですが、いずれルールや手続きを決める側に立ったときには、「研究者に最大限研究に打ち込んでもらうには、何が最善か」という視点で取り組みたいと思っています。また、事務手続きに限らず、研究環境を整えることで研究開発の発展につなげていくという観点から、研究所の運営について自分なりに考えていければと思います。

絵については、産総研にいるからこそ描ける作品や発表できる場があると感じています。今後も事務職員の仕事と両立して描き続けていくことが理想です。

 

(聞き手・文=太田恵子)

 

 

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