触媒固定化設計チーム

第3回 「脱石油依存」の可能性秘める触媒技術 座談会

~産学官で挑む夢のプロジェクト~

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産業技術総合研究所
触媒化学融合研究センター
佐藤 一彦氏
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三菱化学
執行役員経営戦略部門長
浦田 尚男氏
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経済産業省
製造産業局化学課長
茂木 正氏

日本の化学産業の競争力の源泉であり、常に高い世界シェアを誇っている機能性化学部材。その製造技術を支えているのが触媒技術だ。今後もこの分野で日本が優位性を保つために、触媒研究はどうあるべきか。経済産業省の茂木正・製造産業局化学課長、三菱化学の浦田尚男・執行役員経営戦略部門長、産業技術総合研究所の佐藤一彦・触媒化学融合研究センター長が鼎談した。

触媒の役割重要

浦田 かつての産業界では「how to make(どうつくるか)」が、今は「what to make(何をつくるか)」が重視されていますが、どちらにおいても触媒技術の重要性は変わりません。
ただ、例えば有機ELでいえば、照明としての機能には注目が集まりますが、素材はケミカルであり、その製造過程で触媒が重要な役割を果たしていることはそれほど知られていません。その意味では今は触媒の重要性が見えにくくなっているのですが、新しい素材をいかに効率的に作るかという点で、触媒の果たす役割は決定的です。

茂木 経済産業省が化学産業の技術開発を応援するときに原材料、プロセス、機能の3つのカテゴリーに分けて考えます。表向きには触媒が出ているわけではありませんが、いずれも触媒が深くかかわっています。触媒の技術開発を支援するという我々の姿勢はこれからも揺るぎません。

浦田 当社が経済産業省に提案した産学共同の研究プロジェクトに人工光合成があります。太陽エネルギーを利用して二酸化炭素と水から化学品を合成するという夢のような話です。それだけ大きな挑戦ですので、通常、プロジェクト期間は5年なのですが、人工光合成は経済産業省と文部科学省が共同で進めている「未来開拓研究」として、異例の長さの10年に設定されています。そして人工光合成を実現させるには、すべてのプロセスで触媒技術が大きなカギを握っているのです。

佐藤 これまで世の中にないものがつくれるような、すごい触媒が見つかれば「何をつくるか」の新しい可能性を広げることもできるでしょう。皆があっと驚くようなチャレンジをすることが重要だと思います。
産総研でも「未来開拓研究」の中で、砂(二酸化ケイ素)から化学品をつくる研究に産業界と一緒に取り組んでいます。もし実現すれば、今は石油からつくられているいろいろな樹脂や繊維が砂からできるようになり、日本も資源国になるかもしれません。それには今までにない触媒を見つけなければなりません。これまでの研究分野間の垣根を越えた分野融合による研究開発が重要です。
当研究センターはそのハブとしての機能も期待されていて、産総研内外の触媒研究者と協力して、触媒分野の新しい学術領域をつくることができればと思っています。研究成果についてはそれが産業界で実際に使われなければ意味がないとも考えています。当研究センターはこれまで以上に企業にも寄り添っていこうと思っています。

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連携が不可欠

浦田 産業界と大学、公的研究機関の「産学官」の連携がこれまで以上に重要になっています。学と官は「知の集積体」です。そこに集積された知をインダストリーに結び付け、より質の高い製品にしていかなければなりません。産学官が産業競争力の向上という同じ目標に向かって協力する必要があります。
産業界も学と官との連携に前向きになっていますし、当社も研究開発については「脱オール自前主義」を掲げています。すべて自前でやろうとすれば、途方もない時間がかかってしまいますが、この時代、時間軸のない研究開発はありません。産学官がそれぞれどのような知恵を出し合うかが問われていると思います。

茂木 組織の壁を越えて同じ目標に向かって技術革新に取り組む「オープンイノベーション」という考え方は、IT(情報技術)の業界では比較的早い時期に浸透していました。化学産業でも同様の流れができつつあると感じています。オープンイノベーションでは、「共働」と「競争」の2つの考え方のバランスをとる必要があると思います。
原材料の開発など「川上」のところでは我々や産総研のような公的研究機関がそれこそ触媒となって企業を結び付ける。でもその原材料を使ってどのような製品を作るのかという「川下」の部分では企業同士の競争を促す。研究開発のフェーズによって国や公的研究機関のかかわり方が変わってくると思います。

競争力を向上

佐藤 産総研のイノベーションは企業とかかわることで達成されると思っていますし、我々も産業界の人たちと一緒によいものを作ろうという気持ちを強く持っています。世界中どこにでもある砂を触媒で化学品にかえるという産総研のプロジェクトは、日本経済の石油への依存度を大幅に下げるインパクトを与える可能性を秘めています。
こうした夢のようなプロジェクトに取り組むとともに、そのままでは実用化できない既存の触媒技術を改善して企業ニーズと結び付け、産業界で使えるようにすることにも力を注いでいます。あえて両方を追いかけるというのが当研究センターのスタンスです。

茂木 現在、経済産業省では人工光合成に加えて、ケイ素や非可食性植物(バイオマス)を原料として化学品を作る技術開発を支援しています。これらのプロジェクトには地球温暖化の解決と、環境にやさしい新たな資源を有効活用するという意義があります。
天然資源が乏しい日本は、経済の石油への依存度を下げることにきゅうきゅうとしてきました。それが省エネルギーや再生可能エネルギーの研究を進めた要因にはなりました。シェールガス革命が世界のエネルギー需給に大きな影響を与えるのと同じように、人工光合成やケイ素プロジェクトも実用化すれば、今の経済のルールを変えてしまうかもしれません。

佐藤 ケイ素プロジェクトや人工光合成、バイオマス有効利用。いずれもその成否のカギは触媒が握っています。触媒研究の強化は日本の化学産業の優位性を維持させるだけでなく、産業界全体の競争力向上にもつながると思います。

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(平成25年10月22日日経産業新聞6面掲載広告転載 企画・制作=日本経済新聞社クロスメディア営業部)